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その他(講座全体について、小林秀雄氏の著作について、など)の感想/松浦逸郎

  • manebiyalecoda
  • 2020年2月17日
  • 読了時間: 3分

《私のベルクソン体験》

 小林秀雄を読み始めて3年ほど経った頃(池田先生の講義を聞いて3年経過の頃)、小林秀雄をより深く理解するためにはベルクソンを読む必要があると考えました。

 哲学書を読んだ事の無い私には、ベルクソンは難しすぎるとも思いましたが、ともかく簡単そうな小論文から読んでみる事にしました。

 最初に買った本が、中公クラシックスの『哲学的直観ほか』という本です。

比較的短い論文が五つあります。

 その最初に『形而上学入門』という論文があり、更にその最初の小項目に『分析と直観』があります。6ページほどの短くて読みやすい文章です。

 この冒頭の文章から初めてベルクソンを読み始めました。

 偶然ですが、これが私にとって最高のベルクソンとの出会いでした。

 ベルクソンの『分析と直観』は、まさに小林秀雄が繰り返し強調している「頭で分かったつもりになるな。無私になれ。五感を研ぎ澄ませ。」と全く同じ認識論を哲学的に主張しているものでした。


 おおよそ次のような内容です。認識の方法は分析と直観の二通りがあり、

 ①(分析)対象の周囲を回るという性質を含んでおり、我々がとる見地と表現に用いられる記号とに依存する。相対のうちにとどまる認識である。

 ②(直観)対象の内部に入り込むという事を意味している。見地というものを考えず、記号に頼らない方法である。それが可能な場合は絶対に到達する認識である。

実証的科学の普通の機能が分析(①)である事は分かりやすい。従って実証的科学はなかんずく記号を使って作業をする。

 ②の直観とは、対象そのものにおいて独自的であり、従って言葉をもって表現しえないものと合一するために、対象の内部へ自己を移そうとするための共感を意味している。


 ここを読んで私は、真っ先に小林秀雄の『美を求める心』を思い出しました。

(新潮社刊『小林秀雄全作品』第21集252ページ)

「今日の様に、知識や学問が普及し、尊重される様になると、人々は、物を感ずる能力の方を、知らず識らずのうちに、疎かにするようになるのです。物の性質を知ろうとする様になるのです。物の性質を知ろうとする知識や学問の道は、物の姿をいわば壊す行き方をするからです。……花の姿の美しさを感ずる時には、私達は何時も花全体を一と目で感ずるのです。」

 ここで小林秀雄は、ベルクソンの認識①ではなく②で美を感じなくてはいけないと強調しています。

 例えば『歴史の魂』でも同様な思想が見られると思います。

(新潮社刊『小林秀雄全作品』第14集161ページ)

「歴史を記憶し整理する事はやさしいが、歴史を鮮やかに思い出すという事は難しい、これには詩人の直覚が要るのであります。」


 他にもたくさんあると思います。

 もし、まだ読んでいないのであれば、ベルクソンのこの部分を是非読んで下さい。

 小林秀雄が絶賛していたベルクソンの思想の原点がここにあるように思います。

 またベルクソンは哲学でフランス語の翻訳なので、色々な例を出して論じていますが、あくまで哲学論文です。

 小林秀雄は、ベルクソンの哲理を見事に美しい日本語で語りかけてくれます。

 さすがです。

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