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2021年9月16日(木) 「ドストエフスキー」 /トンベ

  • manebiyalecoda
  • 2021年10月14日
  • 読了時間: 3分

「罪と罰」を初めて読んだのは、まだ大学生の頃でした。青春という言葉を

口にするのがまだ恥ずかしくなかった時代、ラスコーリニコフとソーニャ、そ

してラズミーヒンとドゥーニャの愛の行方に一番関心を持ち、幾多の障害を乗

り越えてそれぞれが幸せに結ばれることを願って読み進んでいました。

 再読したのは、四十代の頃でした。この時は、以前、単なる悪人としてしか

認識していなかったスヴィドリガイロフに感情移入してしまい、その最後がも

っとも印象に残りました。品行に問題があり、奥さんを殺したかもしれないこ

の男に同情の余地はないかもしれません。しかし、ドゥーニャを策略により部

屋に閉じ込めたあと、抵抗されて拳銃で撃たれようとした際にも防御せず、ド

ゥーニャが拳銃を捨てたあと、力ずくで自分のものにもできたはずなのに、「

愛してくれないんだね?」と尋ねたところ否定され、そのままドゥーニャを逃

がしてしまい、そのあと拳銃自殺してしまいます。歪んだ形ではあるかも知れ

しれませんが、これは自分の命まで賭けた、真に一途な愛以外の何物でもない

と思い、その結末に胸を痛めました。


そして、今回、還暦をとうに過ぎた年齢で、lecodaでの講義に合わせて再々

読を行いました。そのあと池田先生のお話を拝聴しましたが、今まで理解不足

だった小林先生の『「罪と罰」について』の評論に関して、より深く掘り下げ

ることが出来ました。例えば、大江公樹さんもご投稿で言及されている「観念

と行為(可能的行動と現実的行動)の算術的差」の問題です。以前は読み過ご

していたこの言葉を、特にその算術的差が大きくなる、複雑な心理と観念を持

ったラスコーリニコフのような青年の根本的な問題として感得できました。そ

れと「罪と罰」が人間心理の極限を描いた小説であることを認識したうえで、

そこから最終的にはドストエフスキーの心の中に飛び込み、人間、どう生きる

べきかをドストエフスキーと共に問い続けるべき小説(小林先生曰く、『如何

に生くべきかを問うた或る「猛り狂った良心」の記録なのである。』)である

ということも理解することができました。


なぜそういった小説なのか? 『「罪と罰」についてII』に出てくる、兄に送

ったドストエフスキー17歳の時の手紙文を引用します。

「・・・パスカルは言った。哲学に反抗するものは自身が哲学者だ、と。傷

ましい考え方です。――僕には新しい計画が一つあります。発狂する事です

・・・」

 そして、小林先生は当時のドストエフスキーの心に残ったはずの、パスカル

の別の言葉を引用されます。

「真の雄弁は雄弁を否定する、真の道徳は道徳を否定する」

 つまり、ラスコーリニコフは単なる創作上の人物ではなく、ドストエフスキ

ーの大切な一部なのです。


 自分がいかに甘い読み方をしていたかを悟った今、またいつか再々々読に挑

戦したいと思っています。もちろん、小林先生の『「罪と罰」について』を併

せ読むことは必須です。その未来のいつかに向けて、この先どう生きるべきか

を考えることの大切さを、改めて教えて頂いた素晴らしい講義でした。

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