2019年7月講義『近代絵画』
- manebiyalecoda
- 2019年8月3日
- 読了時間: 2分
更新日:2021年1月11日
昭和22年(1947)3月、上野でゴッホの絵と出会って以来、小林氏のなかでは西洋美術への関心が年々高まっていましたが、「ゴッホの手紙」を単行本として出した27年の暮、「観念でいっぱいになったヨーロッパを見てくる」と言って生れて初めての海外旅行に出ました。同行は学生時代からの親友、今日出海氏で、小林氏は50歳でした。
12月25日、羽田を発ってパリに降り立ち、以後、エジプト―ギリシア―イタリア―パリ―スイス―スペイン―パリ―オランダ―イギリスと回って翌年7月4日、アメリカを経由して帰国しました。この半年にわたった旅は絵を観ることを最大の目的とし、エジプトやギリシャの古代遺跡も訪ねましたが、多くはフランスのルーヴル、スペインのプラドといった美術館に毎日のように通って絵を観ました。
帰国の翌年、29年3月からそのヨーロッパ美術探訪を基にして「近代絵画」を『新潮』に連載、31年1月からは『芸術新潮』に連載して33年2月に完結しました。連載期間ほぼ4年。ボードレールの絵画論を序章に置き、モネ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーガン、ルノアール、ドガ、ピカソを中心として、レンブラント、ドラクロア、コロー、ミレー、ベラスケス、ゴヤといった大画家たちが、自分自身を現すためにどれほど色に苦心したかを描きだしました。単行本の「著者の言葉」に、「近代の一流画家たちの演じた人間劇はまことに意味深長であって……」と言っています。
したがって、「近代絵画」も、「様々なる意匠」で宣言した<天才たちの人間喜劇>なのです。ランボオ、ドストエフスキイ、モオツァルト、ゴッホに続く、人間のドラマなのです。なかでも小林氏は、セザンヌが好きでした。氏はセザンヌのどこがどう好きだったか、今回はそこから出発してお話ししようと思います。
講師 池田雅延
*「近代絵画」は、新潮社刊『小林秀雄全作品』の第22集に入っています。
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