2,021年9月講義「ドストエフスキー」
- manebiyalecoda
- 2021年9月23日
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今月は、「小林秀雄と作家たち その1」シリーズの第6回、「ドストエフスキー」です。ドストエフスキーはトルストイとともに19世紀のロシアを代表する大作家ですが、小林氏は昭和8年(1933)30歳の1月に発表した「『永遠の良人』」から同39年、62歳の5月に刊行する「『白痴』について」に至るまで、実に30年にもわたってドストエフスキーを熟読し続けました。昭和14年5月には「ドストエフスキイの生活」を刊行し、「久しい間、ドストエフスキイは、僕の殆ど唯一の思想の淵源であつた。恐らくは僕はこれを汲み尽さない。汲んでいるのではなく、掘っているのだから」と言いました。
今回取り上げる「『罪と罰』についてⅠ」と「同Ⅱ」の「罪と罰」は、ドストエフスキーの五大長篇、「罪と罰」「白痴」「悪霊」「未成年」「カラマーゾフの兄弟」の第一作であると同時に世界の文学に大革命をもたらした大作です。貧しさに負けて大学を中退したラスコーリニコフは、選ばれた人間は人類の幸福のためには殺人も許されるという想念にとりつかれて金貸しの老婆を殺します、しかし良心の呵責に駆られ、罪の意識に怯えて、人間心理の極限をさまよいます。この「人間心理の極限」は、それまで世界中の誰にも描かれたことがなく、小林氏はこうしてドストエフスキーの独創に成ったラスコーリニコフの精神地獄を克明に追体験していき、「これは犯罪小説でも心理小説でもない。如何に生くべきかを問うた或る『猛り狂った良心』の記録なのである」と言います。
「『罪と罰』についてⅠ」は「小林秀雄全作品」の第5集に、「同Ⅱ」は第16集に入っています。
講師 池田雅延
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